*この文の主要部分が完成したのが2001年度のプロスポーツシーズン終了後
なので、2001年度のプロスポーツ(取り上げたのはサッカーと野球)の順位ルールの
話が中心となります。
1.サッカーJリーグの順位ルール 2001年度のJリーグにおいて、順位を決めるための勝ち点ルールは表1のとおりで ある。 【表1】
しかしこのルールは「1試合1勝の原則」違反である。「1試合1勝の原則」と は、 『どのような形で決着した試合であれ、1試合で両チームが獲得する勝ち数の合計は1勝 でなければならない。』 というものである。つまり『スポーツの1試合とは2チームで1勝を争うものであるから 、後日再試合などではなく、その場で決着がつき1試合分消化したことになるなら、それ が引分けを含めたどんな形であれ、その1勝分の勝ち数を試合した両チームに配分しなけ ればならない。そして「1勝分の勝ち数を試合した両チームに配分しなければならない」 とは、両チームに配分する勝ち数の合計は1勝を超えてはならないし、下回ってもならな いことを意味し、また「1勝」以外のもの、例えば「引き分けは勝敗に関係ないものとみ なす」などにすりかえてはならないことを意味する。』という原則である。言い換えれば 『一旦出した賞品(1勝)は戻すことができず、その賞品を1(1勝)という数値以外の ものとすりかえることもできない。』と言えようか。 これが勝ち数でなく、Jリーグのルールのように勝ち点の場合は、 『どのような形で決着した試合であれ、1試合で両チームが獲得する勝ち点の合計は皆同 じでなければならない。』 となる。 そしてこの原則を守らないかぎり正しい勝ち数(勝ち点)の評価はできない。 ではこの「1試合1勝の原則」に則り表1の内容を点検する。表1において「1試合で 両チームが獲得する勝ち点の合計」は、上から3点、2点、2点である。これは「勝ち点 の合計は皆同じでなければならない」という「1試合1勝の原則」違反である。では原則 に違反するとどうなるか。90分と延長戦で勝ち点に差をつけることには特に異論はない 。しかし表1のように延長戦勝ちチームの勝ち点にだけ差をつけて、延長戦負けチームの 勝ち点に差をつけないのは不合理である。延長戦勝ちチームは90分では勝てず延長戦で やっと勝てたので、勝ち点を90分勝ちの3点から2点に減らされた。それに対し延長戦 負けチームは、90分では負けず延長戦に持ち込んでやっと負けたのであるから、勝ち点 が90分負けと同じ0点のままでは不合理である。スポーツのルールは自由に決められる ところが多いが、このような不合理は決して許されるものではない。「1試合1勝の原則 」を守らないとこのような不合理が生じる。ここは延長戦勝ちが1点減点されるのであれ ば、延長戦負けには1点加点しなければならない。こうすれば勝ち点の合計は上から3点 、3点となり、90分と延長戦については「勝ち点の合計は皆同じでなければならない」 という「1試合1勝の原則」が守られたことになる。 しかし引分けについてはまだ原則が守られていない。引分けの勝ち点は1点ではなく1 .5点にしなければならない。なぜなら引分けの勝ち点は、延長戦勝ちの2点と延長戦負 けの1点とのちょうど中間だからである。これは90分勝ちの半分の勝ち点でもある。要 は引分けとは勝ちと負けの中間だということである。こうすれば勝ち点の合計は表1の上 から3点、3点、3点となり、「勝ち点の合計は皆同じでなければならない」の原則が守 られたことになる。これを表にまとめると表2のようになる。 【表2】
あとは延長戦の勝ち点が、90分あるいは引分けの勝ち点からみて合理的か否かという問 題が残る。しかし「1試合1勝の原則」はそこまでは関知しない。「1試合1勝の原則」 を守ることは、合理的な順位ルールを作るための必要条件であって十分条件ではない。な お表2において合計欄の3点は1勝に相当する。そこで合計を1勝として表を作り直す、 つまり各数字を3で割ると表3のようになる。 【表3】
表3より「1試合1勝の原則」の勝ち数制と、勝ち点制の中身に違いのないことがわかる 。 (註1) 2.プロ野球の順位ルール 2−1.引分けは0.5勝 「1試合1勝の原則」は、内容から分かるようにサッカーだけに当てはまるものではな い。当然プロ野球でも守らなければならない原則である (註2) 。この原則に則ったプロ野球の勝ち数、すなわち引分けがある場合の勝ち数は表4のよう になる。 【表4】
このように「引き分け=0.5勝」とするのが正しいのである。表4の場合、勝率の計算 式は、 勝率=(勝ち数+0.5×引分け数)/試合数・・・(2) となる (註3)。 2−2.勝率制とは 引分け=勝率 ところがプロ野球界で従来より採用されてきた勝率計算式は次のとおりである。 勝率=勝ち数/(試合数−引分け数)=勝ち数/(勝ち数+負け数)・・(3) 以後この式を使う順位ルールを勝率制、勝率順位制と呼ぶ。3式は、「引分けは勝敗に関 係ないので試合数から差し引く」という発想から生まれたものらしい (註4) 。しかし、3式を使っている限り、以前マスコミを賑わした「勝率順位か、勝ち数順位か 」という問題は永久に不滅である。なぜなら3式は次のような3式特有の問題を抱えてい るからである。その問題とは、チーム間で引分け数が異なると3式の分母の値が変わるの で、勝率と勝ち数が比例せず (註5) 、その結果勝率順位と勝ち数順位が異なる場合が起こり得るということである (註6) 。それに対して「1試合1勝の原則」に則った2式ではそのような問題 は起こりえない。なぜなら全試合終了後は分母の試合数がどのチームも140試合で一致 するので、勝率と勝ち点(=勝ち数+0.5×引分け数)が比例するため (註5) 、勝率順位と勝ち点順位が同じになるからである。 ところで3式を表4のような形で表すとどうなるか?中学生時代の数学の代数で最初に学 んだ「もしy=xならば、y+a=x+a、y−a=x−a、ay=ax、y/a=x/ aである」を使って3式を変換する。 勝率=勝ち数/(試合数−引分け数)・・(3) まず3式の両辺に(試合数−引分け数)を掛ける。 勝率×(試合数−引分け数)=勝ち数 左辺の勝率を試合数、引分け数にそれぞれ掛ける。 勝率×試合数−勝率×引分け数=勝ち数 両辺に勝率×引分け数を足す。 勝率×試合数=勝ち数+勝率×引分け数 そうして最後に両辺を試合数で割ると、 勝率=(勝ち数+勝率×引分け数)/試合数・・・(4) となり、勝率を表す別な式が導かれる。この4式は、2式 勝率=(勝ち数+0.5×引分け数)/試合数・・・(2) と見比べると、引分け数の係数が2式の0.5に対して4式では勝率となっているだけで ある。そこでこれを表4にならって表にすると表5のようになる。 【表5】
表5の合計欄を見れば分かるように、3式で順位を決める勝率順位制は「1試合1勝の原 則」違反である。またこのルールは「引分け=それぞれのチームの勝率」という、なんと も理解しがたい奇妙なルールであることが分かる。 2−3.勝ち数制とは 引分け=負け また2001年度にセリーグが採用したルールとは、引分けの有無に関係なく勝った試 合数の多い少ないだけで順位を決めるルールなので、1試合における勝ち数は表6のよう になる(以後このルールを勝ち数制、勝ち数順位制と呼ぶ)。 【表6】
表6の合計欄を見れば分かるように、こちらも「1試合1勝の原則」違反である。「勝ち 数の多いチームを上位とする」などともっともらしく表現していたが、その実は「引分け =負け」、すなわち試合の結果によっては、1試合で負けチームが2チームできるという とんでもないルールなのである(負けたチームがあるなら勝ったチームはどこだ?)。勝 率順位制では「頑張って引分けに持ち込んだ」と言えたが、勝ち数順位制では「余計なこ とをするからお前のチームばかりでなく、うちのチームまで負けてしまった。他のチーム を喜ばせただけだ。なんでそんなアホなことをしたのか」と相手チームからクレームがつ くことになる(とすると勝ったチームとは、試合に参加していない他のチームのこと?実 はそうなのです。その試合に参加しなかったチームがそれぞれ、ただで1勝ずつもらった ことになるのです。サッカーについても同じことで、延長戦勝ちの2点、引き分けの1点 ×2チーム=2点と90分勝ちの3点との差1点は、その試合に参加しなかったチームが それぞれ、ただで1点ずつもらったことになります。) 。なお勝ち数順位制の勝率計算式は表6より次のようになる。 勝率=(勝ち数+0×引き分け数)/試合数・・・(5) このように勝ち数順位制といってもちゃんと勝率の計算式があるのである (註7) 。ただし引分けがあるにも関わらず、引分けのない場合の勝率計算式(1式)と同じでは おかしいのである。 勝率=勝ち数/試合数・・・(1) 2−4. 勝率順位か、勝ち数順位かの問題 この問題は、言い換えれば「3式 勝率=勝ち数/(試合数−引分け数)・・・(3) すなわち 勝率=(勝ち数+勝率×引分け数)/試合数・・・(4) で順位を決めるか、5式 勝率=(勝ち数+0×引き分け数)/試合数・・・(5) で順位を決めるか」と言うことが出来る。さらにこれは「引分け=勝率か、引分け=負け か」と言い換えることが出来る (註8) 。ところでもし「引分け=0.5勝」、「引分け=勝率」、「引分け=負け」とあって、 このうちどれが正しいルールかと問われたら、どう答えるだろう。小学生でも引分けは0 .5勝が正しいと答えるだろう。この小学生でも正解の出せる結論にセリーグ(セリーグ ばかりではないが)が到らなかったのはなぜか。とりもなおさず「1試合1勝の原則」を 無視したからである。これで「勝率順位か、勝ち数順位か」の議論がいかに虚しいもので あるかがわかるであろう。 3.「一試合一勝の原則」の変な説明 【表7】
【表7】参照。2チームで勝敗を争う競技では、勝敗の結果は勝ち、負け、引き分けの いずれかである。そして勝ったチームが1勝、負けたチームが1敗となる。この競技を複 数回実施したときの勝ち数の数え方は1勝、2勝、3勝・・・である。これから「勝」が 物を数える際の単位であることが分かる。「敗」も同様に単位であるが、1敗=0勝、2敗 =0勝、3敗=0勝・・・であるから、「敗」も「勝」という単位に統一することができ る。そして「勝」に単位を統一後の両チームの勝ち数の合計1勝、2勝、3勝・・・n勝 が、表7より試合数1試合、2試合、3試合・・・n試合 に等しいことがわかる。 すなわちn試合後の両チームの勝ち数の合計はn勝である。これは 1試合での両チームの勝ち数の合計は1勝であると言い換えることができる 。これが一試合一勝の原則である。 引き分けについても、勝敗の結果である以上一試合一勝の原則に則らなければならない 。1試合でのAチームの勝ち数とBチームの勝ち数をそれぞれA勝、B勝とすれば、A+ B=1である。そして引き分けとは両チームに優劣が付けられない状態であるか らA=Bである。これあたりまえ。これよりA+B=1は2A=1または2B=1となり 、A=B=1/2、すなわち引き分けは双方0.5勝となる。これが原則である。これを アレンジして、A:B=0.7勝:0.3勝などとするのは問題ないが、A+B=1勝で なければならないのは言うまでもない。 この説明から分かるように「一試合一勝の原則」とは、解説するまでもなく子供でも当 否を判断できる原則である。(訂正:子供は頭が良いので判断できるが、大人になると馬 鹿になるので、大人はこれを判断できないのである。) 4.最後に一言 プロ野球界に「勝率制か、勝ち数制か」という無意味な議論があるので、それに対して 「一試合一勝の原則」なるいかがわしいものを出してきて煙に巻きましたが、要するに「 試合の結果は勝ち、負け、引き分けのいずれかとする」と決めた時点で、引き分けは0. 5勝と決まっている、ということを言いたかっただけです。 以上
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